大判例

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札幌高等裁判所函館支部 昭和27年(う)136号 判決

弁護人控訴趣意第三点及び被告人の控訴趣意(いずれも自救行為)にいつて。

各所論の要旨は、被告人の本件切除行為は万止むを得ざる自救行為であつて公序良俗にも反しない程度のものであるから現行法においては違法性を阻却するものであつて原判決がこれを認めないのは理由不備であるといい、その理由として、被告人が小西の同意があつたものと信じてなした行為で善意であつたこと、本件軒先の一部切除による小西の家屋の効用減殺の程度と、これを切除せざるために受ける損害の程度とは比較にならぬ程被告人の損害が甚大であるとして本件の効用価値の薄い屋根の一部の切除による僅少なる損害と、緊急止むなき状態において権利者が家屋増築によつて大衆に与うる利益とを比較考慮するならば本件の場合違法性なき自救行為として違法性を阻却すると主張するのであるが、本件被告人の所為が小西与太郎の承諾なきことを認識しながらなしたものであり又同人が承諾したものでもないことは前説示のとおりであり、かゝる行為が他人の財産権を侵害するものであつて公序良俗に反することは言を待たないところである。被告人の切断した本件小西の玄関が被告人の借地内に突出していたことは本件記録により認め得られるが、仮にこれが所論のように小西与太郎の無許可の不法建築であつても、その侵害を排除するため法の救済によらずして自ら実力を用いることは法秩序を破壊し社会の平和を乱し、その弊害たるや甚だしく現在の国家形態においては到底認容せらるべき権利保護の方法ではない。正当防衛又緊急避難の要件も具備する場合は格別、漫りに明文のない自救行為の如きは許さるべきものではないのである。そして本件記録及び原裁判所で取調べた証拠によると被告人は増築を設計する当初から小西所有の建物の玄関庇が突出していることが判つているにかゝわらず被告人の意のまゝに設計増築し原判示所為に出たるものでその被告人の所為が正当防衛又は緊急避難の要件を具備していないことが明かである。その増築は倒産の危機を突破するためやむなくなしたものであり小西の損害は僅少で増築による被告人の受ける利益は多大であるというが如きは未だ法の保護を求めるいとまがなく且即時これを為すにあらざれば請求権の実現を不能若しくは著しく困難にする虞がある場合に該当するとは認めることはできない。それゆえ、法律上の手続によらず自らの実力行使に出でたる被告人の行為は違法という外なく従つて被告人の原判示所為を刑法第二百六十条の建造物損壊罪に問擬した原判決には所論のような理由不備等の違法は存在しない。

被告人の控訴趣意中、被告人は本件の如き場合は適法行為への期待可能性がないから責任を阻却して犯罪の成立が否定せられているというのであるが、一般普通人が被告人と同一の地位状態の下におかれても違法行為をしないで他に適法行為をなすことを期待し得ないという場合であれば被告人の違法性を非難すべきではないが、本件の場合かゝる事情は認められないので期待可能性の理論をもつて刑事責任なしとすることはできない。いずれも論旨は理由がない。

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